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第2部 第7章 包括的基本権と法の下の平等

一、生命・自由・幸福追求権  二、法の下の平等


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二、法の下の平等

1 平等の観念の歴史


以上の包括的基本権(幸福追求権)と同じように、総則的な人権において重要な原則が法の下の平等です。








憲法14条1項では、法の下の平等を規定しています。


この法の下の平等の規定によって、個人に対して国家から差別されない権利や平等に扱われる権利(平等権)を保障しています。
また、国家に対しては個人を差別しないという原則(平等原則)を定めています。





ここでおさらいです。近代立憲主義はどのようにして確立されていったのでしょう?








その通りです!よくできました。
個人を法的に均等に取扱ってその自由な活動を保障しました(形式的平等)。

19世紀後半(近代立憲主義の社会)においては、この形式的平等を重視していました。
しかしその結果、貧富の差が大きくなってしまいました。


そこで、20世紀(現代立憲主義の社会)においては、社会的・経済的弱者に対して、より厚く保護を与え、それによって他の国民と同等の自由と生存を保障していくことが要請されるようになりました(実質的平等)。


原則である形式的平等を補充するものとして、実質的平等も重視されるようになったのでした。
(形式的平等→実質的平等)








良い質問です。しかし残念ながらそれはできません。
14条を根拠にただちに国に現実の経済的不平等是正を請求する権利が発生するわけではないのです。

2 憲法における平等原則


日本国憲法は14条で法の下の平等の基本原則を宣言し、

さらに個別的に貴族制度の廃止(14条2項)、栄典にともなう特権の禁止(14条3項)、普通選挙の一般原則(15条3項)、選挙人の資格の平等(44条)、夫婦の同等と両性の本質的平等(24条)、教育機会の均等(26条)

を規定しています。


明治憲法では1つの条文でしか平等原則を規定していませんでした(公務員就労資格19条)。
日本国憲法は細部にわたって平等原則を徹底しています。


3 法の下の平等の意味


憲法14条1項の法の下の平等には2つの意味があります。

1つ目は「法の下」の意味、2つ目は「平等」の意味、です。

まずは1つ目の「法の下」の意味から説明します。
「法の下」の意味は立法権による法内容の平等まで要求していると考えています(立法者拘束説) 。

「法」とは憲法を指し、立法府も憲法の下にあり不平等な内容の法律を作ることが禁止される、と考えているのです。


続いて2つ目の「平等」の意味を説明します。

「平等」の意味は相対的平等と考えます。相対的平等とは、各人の現実の差異に着目して、それに応じた異なる扱いを認めるものです。

どんな人も必ず同じように扱うという絶対的平等を保障したものではありません。

例えば、陸上の100m走で男子も女子も一緒に競走したら男子ばかり勝ってしまいます。
こういう風に機械的・絶対的に同じに扱うことを絶対的平等といいます。

そこで男子は男子だけ、女子は女子だけ、という具合に差別して競走させます。
こういう風に現実の差異に着目してそれに応じた異なる扱いを相対的平等といいます。









確かに言葉は似ています。どこの時点の平等に注目するかで異なります。この違いをしっかり理解しましょう。









平等の問題と関連して積極的差別解消措置(affirmative action)があります。








積極的差別解消措置とは歴史的に差別を受けてきたグループ(特に黒人や女性)に対し、大学入学や雇用等につき特別枠を設けて優先的な処遇を与える措置のことです。

例えば、ある会社の新入社員採用がかつては男性のみ採用して、女性を採用していませんでした。
しかし、女性の方が男性よりも採用されやすい会社に変わりました。こうした措置が積極的差別解消措置になります。









たしかに行き過ぎてしまうと「逆差別」になりかねません。
しかし、逆差別とはいえない限りは、積極的差別解消措置は、機会の平等を回復し実態に応ずる合理的な平等を実現するものとして、容認されています。

不平等を是正するためには不平等を使わなくてはならない、という制度が積極的差別解消措置です。





4 平等違反の違憲審査基準


憲法14条はわざわざ「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により」と列挙しています。
憲法が後段であげている事項はほんの例示にすぎません。

これら列挙事由以外のことについても差別することは許されません。


5 平等の具体的内容






では、人種、信条、性別、社会的身分又は門地、の順にそれぞれ説明していきます。

まず人種です。

黒人であることや日本人であることによって差別してはならない、という意味です。
人種差別は、アメリカの黒人差別問題に象徴されるように、深刻な政治的・社会的な争いを生んでしまいます。
したがって、人種による差別が禁止されています。


続いて信条です。

信条は、宗教上の信条にとどまらず、広く、思想上政治上の主義をも含んでいます。


次は性別です。

歴史的にみて女性が差別されてきたことは明らかです。

雇用機会における差別や夫婦生活における女性差別がありました。
雇用機会においては男性社員を多く募集するのに対し、女性社員は募集しない、又は形のうえで募集だけしておいて採用しない等、の差別がありました。

夫婦生活においても不貞行為(浮気をすること)は女性のみが刑法上の罪に問われ、男性には何の罪も問われない、等の差別がありました。










その通りです。しかし、今日これらの女性差別は法律改正などで大幅に是正されています。

世界的にも男女差別を撤廃しようという動きが活発になって、条約や法律がたくさんできました。
とくに1981年発効の女子差別撤廃条約は、男女雇用機会均等法の制定など女性差別撤廃を一層推進しました。

もちろん、性差別がすべてなくなったわけではなく、近年では、民法の定める婚姻適齢年や女性の再婚禁止期間などが新たな問題になっています。

女子再婚禁止期間事件では、女性にのみ再婚禁止期間を設ける民法の規定は憲法14条の法の下の平等に反するのではないか、と争われました。


判例は女性にのみ再婚禁止期間を設ける民法の規定は、憲法14条の法の下の平等に反しない、としました。

民法の規定は女性が懐胎した場合に、その子が前夫の子か、それとも後夫の子かをはっきりと確定させるためにあるので、合理的な規定である、としました。












続いて社会的身分です。社会的身分とは人が社会において、一時的ではなく断続的に占める地位のことです(判例)。

社会的身分が争われた事件に、非嫡出子相続分規定事件尊属殺重罰規定事件があります。

非嫡出子相続分規定事件では、非嫡出子には嫡出子の2分の1しか財産が相続されない民法の規定が、14条の法の下の平等(社会的身分による不合理な差別を禁止する規定)に反するのではないか、と争われました。






非嫡出子相続分規定事件では、民法の当該規定は憲法14条の法の下の平等に反しない、としました。

民法は法律婚主義を採用しているため、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図った民法の当該規定は合理的理由がある、としたのです。












尊属殺重罰規定事件では、普通殺人に比べて、尊属殺人を著しく重罰を科すことが法の下の平等(社会的身分による不合理な差別を禁止する規定)に反するのではないか、と争われました。


属殺重罰規定事件では、刑法の当該規定は憲法14条の法の下の平等に反する、としました。
違憲判決を下したのです。

尊属を大切にする、という考え方は大切なものです。
したがって、尊属殺人を重く処罰する目的の合理性を肯定しました。

しかし、刑が死刑か無期懲役しかない、というのは重すぎるものであって、その目的達成の手段として著しく均衡を欠いている、として刑法の当該規定を違憲である、としました。








最後に門地というのは家柄のことです。確かに、あまり聞きなれない言葉です。
顕著な例が華族です。

華族というのは、明治維新後、華族令によって旧諸侯、旧公卿、国家に勲功のあった者に与えられた世襲の特殊身分です。
華族には、貴族院議員の選挙・被選挙権が与えられるなど特権が伴っています。
しかし、この華族制度は、憲法14条2項によって廃止されています。







6 議員定数不均衡の合憲性


議員定数不均衡の問題も、憲法14条に関する重要な論点です。

議員一人あたりの選挙人(有権者数)数が選挙区間で異なることは法の下の平等に反するのではないか、という問題があります。

平成22年の平成22年7月選挙を例に挙げます。

地域によって有権者数、つまり20歳を越えている人の数が違います。
人口の多い地域は当然有権者数も多く、そうでない地域は有権者数も当然に少なくなります。

その年の有権者数は神奈川県が約730万人、鳥取県が約49万人でした。
これに対し、参議院議員の選挙区割による割当ては神奈川県が6人、鳥取県が2人でした。

これを比較すると、有権者数の多い神奈川県は有権者数の少ない鳥取県よりも1票の重みが軽くなってしまいます。
有権者数の多い神奈川県は1票あたりの価値が下がってしまうのです。

神奈川県では80万票獲得で落選したけど、鳥取県では20万票獲得で当選した、なんてことも起こってしまいます。


どこに住むかによって一票の重みに格差が生じてしまうということです。

実際に議員定数不均衡が問題になった判例は沢山あります。

例えば衆議院議員定数不均衡事件(最大判昭51・4・14)です。
昭和47年の衆議院議員選挙において、各選挙区の議員定数の配分比に有権者数との比率で不均衡があったのでは、と争われました。

衆議院議員定数不均衡事件では、1票の格差が最大5対1もありました。


衆議院議員定数不均衡事件では、最高裁は違憲の瑕疵を帯びる、としました。

1対5の割合の投票価値の不平等は正当化できないためです。
こうした投票の価値を争う判決では、不平等を認めたとしても選挙を無効としません。

選挙を無効とすると、選挙がなかったことになってしまい、国会議員がいなくなってしまうからです。








地域によって有権者数が異なるのは当然のことです。
どうすれば投票価値の不平等が起きなくなるか、は頭を抱える問題です。

解決方法は見つかっていません。
アメリカでは国会議員を選挙するとき、有権者数の小さい州は「今年は選挙ナシ!」なんてこともよくあります。


【まとめ】
第2部 基本的人権の尊重
第7章 包括的基本権と法の下の平等
二、法の下の平等

・法の下の平等とは法内容の平等と相対的平等を指している。形式的平等、実質的平等、相対的平等、絶対的平等がある。

・14条列挙事由は特に意味がなく、列挙事由以外の差別も禁じられている。

・最高裁が違憲と判断した尊属殺重罰規定違憲判決であるが、目的は合理であるが手段が不合理であると判断されている。

・投票価値の不平等の問題は解決方法が見つかっていない。

                     ケンくんノート


第2部 第7章 包括的基本権と法の下の平等 二、法の下の平等 おしまい

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