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第3部 第14章 国会

一、権力分立の原理  二、国会の地位  三、国会の組織と国会の活動   四、国会の権能と議院の権能


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三、国会の組織と国会の活動


1 国会の権能



国会には次の権能があります。

(一)法律案の議決権(59条)、
(二)内閣総理大臣の指名権(67条)、
(三)予算の議決権(73条5号)などの財政監督権(83条)、
(四)条約承認権(73条3号但書・61条)
(五)弾劾裁判所の設置権(64条)、
(六)憲法改正の発議権(96条)、
(七)内閣の報告を受ける権能(72条・91条)、

があります。









(一)法律案の議決権、については本章三2の衆議院の優越のところでも述べましたがもう1回おさらいします。
国会議員を英語でLaw Makerといいます。国会議員は法律を作る人、という意味です。

国会議員の発議した法律案は両議院で可決したとき法律となります。

衆議院で可決された法律案が参議院で否決された場合、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再可決されると法律になります。

意見が食い違うときは両院協議会を開くことも可能です。
衆議院が可決してから60日経っても参議院が可決も否決もしなかったら、衆議院は独自に再可決することも可能です。



(二)内閣総理大臣の指名権とは、国会議員の中から国会の議決で内閣総理大臣を指名する権能です。




(三)財政監督権とは国会が国の財政を議決に基づいて処理できる権限です(詳細は17章一1)。
国会は国民の代表機関でした。

財政について国民の代表機関である国会が強いコントロールを及ぼしています。
これは民主的コントロールがされているといえます。

これを財政民主主義といいます。




(四)条約承認権とは内閣の締結した条約を審議して承認を与える権能です。
条約とは国家間の文書による合意のことです。

現代社会では国際政治は複雑なものとなっております。
様々な国際関係や国家間の利益を考慮し条約を締結するのは専門性のある内閣が適しています。

条約承認は国家間の合意のため、私たち個人の生活には一見無関係に見えます。
しかし、条約は国民の生活に重大な影響を与えるのです。

例えばフルーツを関税をかけず自由に輸出入しなければならない、という条約があったとします。

通常、輸入してくる物には関税がかけられています。
関税をかけて海外からの輸入品の値段を高くします。

もし海外からの安いフルーツが、そのまま日本国内に入ってくれば、日本の生産者が大きな打撃を受けてしまうからです。

この条約を、内閣が単独で承認してしまいました。
いくら専門知識のある内閣だからって、こんなことをしたら私たちの生活が脅かされてしまいます。

こんなことが無いように国会による承認を条約の成立要件としているのです。
民主的コントロールがされている、といえますよね。




関税がかからないとフルーツの値段が安くなり、農家の方々にはダメージですが、私たち消費者にとって都合が良いようにも思えます。

しかしそれは間違いです。

日本の農業が守れなくなり、食料自給率が低下すると様々な弊害が起きる危険があるのです。


(五)弾劾裁判所とは、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判する裁判所です。

罷免とはその公職を辞めさせることです。
裁判官は非行を行うと罷免されます。

つまり弾劾裁判所とは非行を行なった裁判官を辞めさせようかどうしようか裁判する裁判所のことです。
国会はこの弾劾裁判所を設置する権能を持っています。












その通りです。実際のところ国民審査は形だけのものになっています。
国民審査による弾劾裁判で実際に罷免された裁判官は今まで1人もいません。

弾劾裁判制度を廃止しよう、と唱える人もいます。
しかし民主的コントロールをする方法としては国民審査は重要な制度です。

目的は正しいのですから有効にこの手段を生かせる方法を考えていくべきでしょう。




(六)憲法改正の発議権とは憲法改正案を発案、審議して国民に提案する権能のことです。
憲法改正は各議院の総議員の3分の2以上の発議が必要です。

総議員は出席している議員ではなく、文字通り議員全員のことです。
その後、国民審査に付され、過半数の賛成があれば憲法が改正されます。












その通りです。日本国憲法は改正するのをとても難しくしています。

こうすることで憲法をコロコロ変えることができなくなり、立法府が既存の憲法に反する法律を作れないようにしています。
最高法規性を保っているのです(1章四参照)。




他にも国会は(七)内閣の報告を受けることができる権能を有しています。










2 議院の権能



続いて議院の権能について説明します。議院とは衆議院と参議院のことです。

議院の権能には議院自律権国政調査権があります。


議院自律権とは各議院が内閣や裁判所など、他の国家機関から干渉を受けることなく自律的に内部組織運営を決定できる権能のことです。

内部組織に関する自律権として、

@会期前に逮捕された議員の釈放要求権(50条)、
A議院の資格争訟の裁判権(55条)、
B議長などの役員先任権(58条1項)があります。

運営に関する自律権として、

@議院規則制定権、
A議院懲罰権があります。


国政調査権とは両議院が国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭・証言・記録の提出を要求できる権能のことです。

国会で充実した審議が行われ、立法権が適切に行使されるために、国会議員がその背景となる情報をしっかりと知っておく必要があるのです。

国政調査を行うのは各議院です。

通常は委員会に付託して行なわれます。
委員会とは常任委員会または特別委員会のことです。

国会では世の中の様々な事柄を扱うため、それに対応できる専門的な委員会があるのです。
この委員会も国政調査権を行使できます。

国政調査権には、これ以上のことは国政調査してはならない、という限界があります。

これを国政調査権の限界といいます。
国政調査権の限界には、

@人権との関係からの限界、
A司法権との関係からの限界、
B行政権との関係からの限界、があります。

まず@人権との関係からの限界として、人権を侵害する調査は許されません。

例えば思想・良心の自由を侵害するような質問は許されません。
また捜索、押収、逮捕のような刑事手続上の手段は認められません。


A司法権との関係からの限界について、司法権の独立を侵害するような国政調査はできません。

例えば、裁判が進行中の事件について、裁判官の訴訟指揮を調査したり、裁判の内容を批判するような調査は許されません。

裁判の判決についても判決内容の当否を調査することは許されません。
但し裁判所と異なる目的から並行して調査することは、司法権の独立を侵すものではありませんので許されます。

B行政権との関係からの限界、についてですが、行政権に対しては全般にわたって広く国政調査権が行使できます。

しかし、公務員の職務上の秘密に関する事項には国政調査権は及びません(議員証言法5条)。
また検察権も行政権ですが、裁判と密接に関わる作用ですので、司法権に類似し独立性が認められています。

よって、起訴や不起訴の判断に対して調査権を行使することは許されません。




憲法41条では、国会は最高機関性を持つとしていました(本章二参照)。

そのため国政調査権の性質は、最高機関である国会が他の機関を統括する独立のための権能である、という説があります(独立権能説)。しかし、これは少数説です。

通説では国政調査権の性質は議院の権能を実効的に行使するために補助的に行使できる権能である、としています(補助的権能説)。

浦和事件では、国政調査権の性質は独立権能説か、補助的権能説か、が争われました。


浦和事件では、浦和地裁が下した判決に対し、参議院の法務委員が不当であると決議しました。

つまり、裁判所の出した判決に、別の国家機関である参議院が国政調査権を用いて批判してきた、というわけです。

最高裁はこれを司法権の独立を侵害し、国政に関する調査の範囲を逸脱している、と抗議しました。
国政調査権の性質は補助的なものだから、司法権の独立を侵害しない範囲に限られる、としたのです(補助的権能説)。






【まとめ】
第3部 統治機構
第14章 国会
四、国会の権能と議院の権能

1、国会の権能には

(一)法律案の議決権(59条)、
(二)内閣総理大臣の指名権(67条)、
(三)予算の議決権(73条5号)などの財政監督権(83条)、
(四)条約承認権(73条3号但書・61条)、
(五)弾劾裁判所の設置権(64条)、
(六)憲法改正の発議権(96条)、
(七)内閣の報告を受ける権能(72条・91条) 、

がある。

2、議院の権能には議院自律権国政調査権がある。

議院自律権とは各議院が内閣や裁判所など、他の国家機関から干渉を受けることなく自律的に内部組織運営を決定できる権限のことである。

内部組織に関する自律権として、

@会期前に逮捕された議員の釈放要求権(50条)、
A議院の資格争訟の裁判権(55条)、
B議長などの役員先任権(58条1項)

がある。

運営に関する自律権として@議院規則制定権、A議院懲罰権がある。

国政調査権とは両議院が国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭・証言・記録の提出を要求できる権能である。

国政調査権の限界として、

@人権との関係からの限界、
A司法権との関係からの限界、
B行政権との関係からの限界、

がある。

国政調査権の性質は補助的権能説が通説である。



                     ケンくんノート


第3部 第14章 国会 四、国会の権能と議院の権能 おしまい

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