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第2部 第10章 経済的自由権

一、職業選択の自由  二、居住・移転の自由  三、財産権の保障


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一、職業選択の自由



本章(10章)では、自由権に分類される経済的自由権について説明します。


1 職業選択の自由の意義と限界



22条では職業選択の自由の保障を規定しています。


職業選択の自由は職業を選択する自由と、選択した職業を遂行する自由があります。
職業を遂行する自由営業の自由ともいいます。

職業選択の自由は経済的自由権です。

さて、ここで経済的自由権は「公共の福祉」に服することが、明文で示されていることに注目してください。
つまり、経済的自由権は規制を受けるのです。

2 経済的自由権に対する規制は2種類


経済的自由権を規制する規制の種類は、2種類あります。

消極目的規制積極目的規制です。

消極目的規制とは、国民の安全を守るため、必要最小限のことだけをする規制です。

背景にある国家像は夜警国家です。
夜警というのは夜のパトロールだけして、国民の安全を守ってくれればいいよ、という意味です。


積極目的規制とは、調和のとれた経済発展を確保し、社会的弱者を保護するための規制です。

背景にある国家像は福祉国家です。
社会的弱者保護のため国が積極的に経済活動に介入します。


消極目的規制の例を挙げます。
例えば、ここに医者になりたい人がいるとします。

医者になるには、一生懸命勉強して、大学で医学を学んで医師免許を取得すれば誰でも医者になれます。

国家は、Aさんアンタが医者をやりなさい、Bさんアンタは医者になっちゃダメです、などと言って介入してくることはありません。

勉強して医師免許を取得する、これだけの規制をクリアすれば医者になれるのです。
この規制が消極目的規制です。

消極目的規制によって、国民の安全を守るための必要最小限の規制がされているのです。

誰でも医者になれてしまう世の中だったら、何も勉強しない人が医者になって、国民の安全が脅かされてしまいます。


積極目的規制の例を挙げます。
例えば、ここに街の商店街があるとします。

街の商店街のお店は小さな規模のお店ばかりです。
小さなお店が立ち並ぶ商店街の近くに突然大型スーパーができてしまったら、商店街のお店はお客さんをすべてとられてしまいます。

商店街の小さなお店は、巨大スーパーが持つ巨大な資本力にとても太刀打ちできないからです。
巨大スーパーは豊富な品揃えをして、商品の値段を下げます。
すると商店街の小さなお店は潰れてしまいます。

そこで国家が介入してきます。

国家は大型スーパーに対して、ここに建ててはいけません!と口出ししてくるわけです。

この口出しする、というのが積極目的規制です。

積極目的規制によって、大型スーパーの資本力の脅威から、社会的弱者である商店街の小さなお店を守っているのです。


以上、経済的自由権に対する規制には消極目的規制積極目的規制の2種類がある、という説明でした。
これを確実に覚えてください。

3 規制の合憲性判定の基準



ここで二重の基準論のおさらいをします。

経済的自由権と精神的自由権では、審査基準が異なります。これが二重の基準論です。

では、どちらが厳しい審査基準で、どちらが緩やかな審査基準だったでしょう。 (6章一参照)

緩やかな審査基準で判断されるのは、経済的自由権の方でした。
理由は2つありました。

1つ目の理由は民主政の過程を守るためでした。
民主政の過程を支える精神的自由は、経済的自由権と違ってこわれ易く傷つきやすい権利だからです。

2つ目の理由は裁判所の審査能力との関係でした。
経済的自由の規制は、社会・経済政策に関係しています。
裁判所は社会・経済政策関係の専門知識がなく審査能力が乏しいからです。


では、経済的自由権に対する規制はすべて緩やかな基準で判断されても良いのでしょうか。

経済的自由権を規制する類型は、消極目的規制積極目的規制がありました。

消極目的規制は、国民の安全を守るための必要最小限の規制です。
国民の安全を守るための必要最小限の規制ですので、社会・経済政策の専門知識は必要ありません。

消極目的規制は裁判所も判断することができます。

では、積極目的規制であれば、立法府が、明らかにおかしい判断を下して経済的自由権を規制しても、許されるのでしょうか。
もちろん許されません。

積極目的規制であっても、立法府が明らかにおかしな判断を下した場合、裁判所も当然に口出しすることができます。
つまり、積極目的規制は、明白に不合理な規制であれば裁判所も判断することができます。










まずは積極目的規制について争われた判例です。小売市場距離制限事件です。


小売市場距離制限事件では、小売市場距離制限が営業の自由(職業選択の自由)を侵害するものではないか、と争われました。

小売市場距離制限とは、小売市場同士が過当競争してしまわないよう国家が積極的に介入し、小売市場同士の距離を一定の距離にするよう制限することです(積極目的規制)。

当該判例で最高裁は、規制の種類を消極目的規制と積極目的規制の2種類に分ける考え方を認めました。

最高裁は積極目的規制は、立法府が明白に不合理な判断をした場合のみ違憲
判断をする、としました。
つまり立法府の裁量に任せたのです。

結局、最高裁は小売市場同士の過当競争を防いで、小売市場を保護する積極目的規制は合憲である、としました。


続いて消極目的規制について争われた判例です。薬局距離制限事件です。


薬局距離制限事件では、薬局距離制限が営業の自由(職業選択の自由)を侵害するものではないか、と争われました。

薬局距離制限とは、薬局同士の過当競争により不良医薬品が供給され、国民の安全が脅かされないようにするという理由から設けられた制限です。

国民の安全を守るため、薬局同士の距離を一定の距離にするよう制限していました(消極目的規制)。


消極目的規制は国民の安全を守るための規制です。したがって、専門知識は必要ありません。
裁判所も判断することができます。

裁判所は薬局同士の過当競争によって不良医薬品が国民に供給される、という因果関係は認められないとしました。

結局、最高裁は薬局の距離制限をして不良医薬品の供給防止・国民の安全を守る、という消極目的規制は違憲である、としました。









【まとめ】
第2部 基本的人権の尊重
第10章 経済的自由権
一、職業選択の自由

1、職業選択の自由は、「職業を選択する自由」と「選択した職業を遂行する自由」(営業の自由)がある。

2、経済的自由権の規制の類型は、消極目的規制積極目的規制の二つがある。

3、
積極目的規制は立法府の裁量に任せる。(但し立法府が明白に不合理な判断をした場合、裁判所が判断をする)
消極目的規制は裁判所が判断できる。消極目的規制は国民の安全を守るための規制であり、専門知識のない裁判所も判断することができるからである。

≪重要判例≫
(しょう)消極目的規制の(や)薬局距離制限事件は(いけ)違憲判決が下された。
(せっきょくてき)積極目的規制の(こ)小売商距離制限事件は(ごう)合憲判決が下された。
  → 「庄屋行け!積極的に合コンに!」 で暗記できる。



                     ケンくんノート


第2部 第10章 経済的自由権 一、職業選択の自由 おしまい

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